相続・終活の必要性と基礎知識 ~第3回~
皆様、「あさひ行政書士法人」、「一般社団法人ライフエンディングステージ」の代表を務めております西木でございます。前回の「緊急医療同意」に続き、今回のテーマは認知症対策です
がん患者数は、178.2万人(平成29年厚生労働省統計)に対し、重篤な認知症の方は462万人。軽度認知障害と推定される400万人(平成26年厚生労働省統計)をあわせると実にがんの5倍近くのリスクがあります。認知症に対する事前準備がいかに必要かわかるデータです。
まずは、認知症になってしまうと、ご自身の財産について、ご自身では管理できなくなります。ご自身の老後資金に充てるため預金の出金、定期預金の解約、株や不動産の売却をしようとしてもできません。正しい判断ができない状態なので、ご本人に任せておくと騙されたり、使い込まれたりなど不利益を被る恐れがあるからです。また、契約行為もできません。理由は同じです。契約行為には一定の判断能力が必要です。認知症の方にその判断能力がない場合は契約行為もできません。
例え家族であっても、何の手続きもなく本人を代理することができません。認知症になってしまった場合は本人を代理する成年後見人の選任を家庭裁判所に申立てる必要があります。本人に代わって預金の出金をする、あるいは契約行為を代理することが出来るのは、家庭裁判所が選んだ成年後見人だけということです。
必ずしも家族が選ばれるという保証はありません。一定の資産をお持ちの場合は家族ではなく、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることがあります。
専門家が成年後見人に選ばれた場合、報酬を支払わなければなりません。その報酬もご本人の財産や事務作業量などを考慮して家庭裁判所が決定します。一般的には、月に3~5万円といわれています。
認知症高齢者の財産を守るためには、子供ではなく専門家に任せたほうがより安全という見解があるようです。成年後見人に選任された子供が判断能力の乏しい親の財産を使い込むという事例が多く発生したことも影響しているのでしょう。
今後は子供を成年後見人に選任するようにと最高裁判所が判断を出しました。そのためには子供の使い込みを防止する一定の方策を講じる必要があるので、現在必ず子供が選ばれるという状況にはありません。いざという時、子供を成年後見人に指定してもらうには、判断能力が備わっている間に《任意後見契約》という契約を公正証書で作成しておくことが望ましいです。
将来認知症になってしまったとき、専門家ではなく自分の子(親戚でも知人でもOK)を成年後見人に選んでほしいという意味を持つ契約です。いわば「事前予約」です。これを作成しておくと裁判所はよほどのことがない限り指定した人を成年後見人に選んでくれます。
むずかしい内容でしたか? 万一認知症になってしまうとこのような難しい手続きが必要となります。今のうちに準備をしておきましょう。